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東京地方裁判所 昭和54年(行ク)68号 決定 1980年1月29日

東京都新宿区西新宿七丁目五番一〇号

申立人

株式会社ミゾタ建築設計事務所

右代表者代表取締役

溝田旭

右代理人弁護士

青木達典

右申立人から昭和五四年(行ウ)第九四号法人税更正処分取消請求事件について、被告変更の申立てがあったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を却下する。

理由

一、本件申立ての趣旨は、申立人(原告)は東京国税局を被告として別紙請求の趣旨記載のような訴えを提起した(当裁判所昭和五四年(行ウ)第九四号、以下「本件訴え」という。)が、被告を淀橋税務署長とすべきところこれを誤って東京国税局としたので、行政事件訴訟法第一五条第一項により被告を淀橋税務署長に変更することの許可を求める、というにある。

二、よって判断するに、一件記録によると本件訴えの請求の趣旨は別紙記載のとおりであって、その第一ないし第三項は申立人の昭和四七年三月一日から昭和五〇年二月二八日に至る三事業年度の法人税につき淀橋税務署長がした更正処分の取消しを求めるもの、またその第四項は右更正処分に関する国税不服審判所長(本件訴状には東京国税不服審判所とあるが、正確には国税不服審判所長である。国税通則法第七五条、第七八条等参照)がした裁決の取消しを求めるものであることが明らかであるから、かかる訴えは行政事件訴訟法第一一条第一項により各処分をした行政庁である淀橋税務署長及び国税不服審判所長を被告として提起すべきところ、本件訴えは被告として「東京国税局右代表者局長渡部周治」と表示して提起したものであるから、被告とすべき者を誤った場合に該当する。

そこで進んで申立人がこのように被告とすべき者を誤ったことにつき故意又は重大な過失がなかったかどうかについて検討するに、一件記録によれば、申立人は弁護士青木達典に訴訟委任して本件訴えを提起したものであるところ、同弁護士作成にかかる本件訴状の請求の趣旨、原因の欄には取消しを求める対象である更正処分及び裁決した行政庁がそれぞれ淀橋税務署長及び東京国税不服審判所である旨明記されており、従って同弁譲士が本件訴状を作成するにあたり、訴訟の対象たる行政処分をした行政庁が東京国税局ではなく淀橋税務署長及び東京国税不服審判所(前記のように正しくは国税不服審判所長である。)であることを認識していたものと認められる。それにもかかわらず同弁護士が本件訴状において被告を前記のとおり表示したのは、行政事件訴訟法第一一条第一項の存在を看過したか又はその解釈を誤ったものという外はなく、かかる誤りは法律専門家たる弁護士が行政事件訴訟を提起するに当り、当然なすべきわずかな注意をもって調査すれば容易に回避し得たものというべきであるから、同弁護士には同法第一五条第一項にいう重大な過失があるといわざるを得ない。

申立人は、<1>本件訴え提起にあたり弁護士青木達典、税理士中村政一らが申立人事務所に集って打ち合わせをした際、同税理士(元淀橋税務署長)が東京国税局に同期の人が居るからといって電話をかけ確かめたところ、被告は東京国税局でよいとのことであった、<2>弁護士青木達典が訴状の起案にあたり淀橋税務署に問い合わせたところ、訴訟関係は本庁の東京国税局ですべて扱っているといわれたこと、<3>更に同弁護士が東京国税局訟務部に問い合わせたところ、当方を被告として出して結構であるとの返事であったこと、等をあげて重大な過失はないと主張する。しかしながら、先ず右<2>については仮にその主張のような回答があったとしても、その内容が被告を東京国税局とすべきであるとの趣旨であるとは到底解されない。また右<1>及び<3>については、仮にその主張のような問い合わせ回答があったとしても、本件は前記のとおり行政処分をした行政庁は明白な場合であるから、被告を誰にするかは専ら行政事件訴訟法第一一条第一項の解釈適用に関する法律問題であり、してみると法律専門家である弁護士が右のような問い合わせをし、回答を得たとの一事をもって過失を免れ得るかは甚だ疑問であるのみならず、右<1>については一件記録によると税理士中村政一が昭和五四年七月二〇日ころ東京国税不服審判所に電話をかけたことは一応認められるものの(電話の相手が申立人の主張と異る。)右主張の趣旨からすれば電話を受けて回答した者を特定し、その内容を具体的に明らかにして右主張の裏づけとすることが容易であるのに、この点の疎明がなく、右<3>については一件記録によれば発信の日時及び受信者を特定するに足りる疎明がないところ、疎乙第一号証に照らすとかかる問い合わせをしたこと自体にも疑いの存するところであって、結局右<1>及び<3>についてはその疎明が十分でない。

三、以上のとおりであるから、被告を誤ったことにつき原告訴訟代理人に重大な過失があったものというべきであり、その効果が同代理人に訴訟委任した申立人に及ぶことはやむを得ないところである。

よって、本件申立ては理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官 原健三郎 裁判官 田中信義)

別紙

請求の趣旨

一、原告の昭和四七年三月一日から昭和四八年二月二八日までの事業年度について淀橋税務署長のした処分のうち次の部分を取り消す。

昭和五一年三月三一日付「法人税額等の更正通知書および加算税の賦課決定通知書」をもって、法人税額を更正し、加算税を賦課した更正決定処分のうち、金七四、二二七、一七七円(本税額)

二、原告の昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度について淀橋税務署長のした処分のうち次の部分を取り消す。

昭和五一年三月三一日付「法人税額等の更正通知書および加算税の賦課決定通知書」をもって法人税額を更正し、加算税を賦課した更正決定処分のうち金八、二三二、四〇七円(本税額)

三、原告の昭和四九年三月一日から昭和五〇年二月二八日までの事業年度について淀橋税務署長のした処分のうち次の部分を取り消す。

昭和五一年三月三一日付「法人税額等の更正通知書および加算税の賦課決定通知書」及び昭和五一年八月一九日付右同訂正分をもって法人税額を更正し加算税を賦課した更正決定処分のうち金六七、六〇一、七五四円(本税額)

四、昭和五四年四月二八日付前記記載の各処分に関する東京国税不服審判所の裁決を取り消す。

五、訴訟費用は被告らの負担とする。

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